病棟である事件が起こります。
患者さんの転倒。
夕方17時頃、トイレに行った時に滑って尻もちをついたそうです。
痛みの訴えはなく、病院内では「転倒」としてフローに沿って対応しました。
医師へも報告し「経過観察」となりました。
夜中、患者さんは足を引きずりながらトイレへ2回ほど行きました。
それでも痛みを問うと「大丈夫」と言われます。
朝、あるスタッフが「歩き方がやっぱりおかしい」と言い、レントゲン写真を撮ることになりました。
結果は・・・右大腿骨頸部骨折。
同日に緊急手術になりました。
さて、ここで様々な疑問と問題が出てきます。
転倒したのはなぜか?
患者さんが動く限り「転倒」の可能性は常にあります。
私達が運転する以上、事故に遭う可能性があるのと同じです。
飛行機が飛ぶ以上、落ちる可能性があるのと同じなのです。
完全に「ゼロ」にする方法は、「行動自体をやめること」しかありません。
転倒したくないなら歩かないこと。
事故にあいたくないなら運転しないこと。
落ちたくないなら飛行機に乗らないこと。
そう。ここをゼロにすることはナンセンスなのです。
もし、「どうして転んだの!」と上司から責められたら、「歩いたからです」とかわしましょう。
転倒の危険性を減らす、もしくは転倒した時のダメージを減らすという視点が大事になります。
なぜ骨折を見落としたのか?
「折れている」とわかっていれば見落としません。
でも、「折れていない」と思っていれば見落とします。
痛みを聞いても「大丈夫」と言い、足の腫れや内出血が無ければ見落とす可能性があるのです。
今回のケースは「折れていないだろう」という思い込みが発見を遅らせました。
骨折=出血という意識があるのか?
ここ、結構大事になります。
あるサイトから借りてきた画像です。
大腿骨の骨折で1000ml程度の出血となります。
(止血機能が働かず、何もしなかった場合の推定です)
人間の身体の血液量はどのくらいでしょう?
成人は水分量が60%、細胞内液が40%、細胞外液が20%。
外液のうち、15%が間質液で、血漿は5%です。
看護師で知らない人はいないと思いますが、(知らなかったら、絶対に覚えておいたほうが良いです)
体重の5%が血液量になります。
50Kgのヒトで血液量は約2500ml程度です。
50Kgのヒトが1000mlも出血したら、約半分血液が無くなることになります。
折れているかもしれない=出血しているかもしれない
なのです。
となると、出血のグレードを知っておく必要があります。(よね?)
1000mlの出血となるとグレードⅢです。
呼吸回数、脈拍、血圧・・・更に末梢冷感などの観察は必須になります。
「ちょっとヤバイわぁ~・・」というレベルです。
それくらい骨折が危険という事は頭に入れておく必要があります。
「あ・・・折れてたんだ」「痛かったね」では済まされないのです。
異常がないと判断したなら、キチンと評価してキチンと記録を残しておく必要があります。